MENU

PROJECT STORY 新ドック建設プロジェクト

リバースエンジニアリング技術により、三和ドックは新たなステージへと踏み出しました。 技術と共に、造船所の力を大きく左右するのは設備です。三和ドックの第一次設備拡大計画は2007年の艤装桟橋完成を以て一旦は完了し、内航船や近海船の修繕ドックとして最適な設備が整いました。造船の教科書に載る程に効率的かつ完成された設備を備えたはずの当社が、なぜ、更なる設備拡張に踏み切ったのか。その背景を追います。

設備拡張計画の始動

写真:設備拡張前、2007年の三和ドックの空撮写真

2008年9月のリーマン・ショック。為替は大幅に円高に振れ、輸出産業が停滞するなど日本経済にも大きな影響をもたらした。しかし、三和ドックに関してはどこ吹く風。為替影響の少ない内航船修繕を得意とする当社にとっては、当初はどこか他人事の様に見えていたといっても過言ではない。そんな中、社長の寺西は、古くからのお客様が新たに建造する船舶の多くが、当社に対応できるサイズよりも大きくなっていくことに違和感を覚えていた。実際に統計を見ると、内航船の大型化の傾向は、特にリーマン・ショック後に顕著なものとなっていた。「このまま内航船に特化しても当社は生きていけない」。その危機感が芽生えた時、頭に浮かんだのは2004年に成立し、発効間近と言われたバラスト水管理条約と当社が実用化したリバース・エンジニアリング技術である。「バラスト水処理装置(BWMS)搭載工事を武器とすれば大型船修繕に参入してもお客様から支持頂ける」。2007年に一度は完成したと思われた三和ドックの設備拡張計画が、今までにない規模で再度出発することとなった。

幾度の計画変更、着工へ

写真:建設中の7号ドック。写真手前が掘削地、奥を止水し埋め立てた

事業拡大に向け、当初計画したのは、海外で多用される浮ドックだった。浮ドックとはドック自体を海中に沈め、船が乗った後に浮き上がらせることで船底の作業が可能な状態とする設備。しかしどこを探しても海外製のものしか見つからず、電圧の違いや日本の安全基準に沿ったクレーンを搭載する費用などが掛かり、中々思う様に行かなかった。そこで今度は埋立と掘削で新たなドックを2本造る計画とした。しかしこちらも大きな壁に直面する。三和ドックが位置する瀬戸内海は埋め立ての準禁止区域。計画の2万m2を超える埋立は広島県から許可されない。結局、一本のドックと作業建屋を建設する計画に変更、1.7万m2に埋め立て面積を抑えた。バラスト水処理装置という環境保護条約への対応を主眼に置いた設備投資として国土交通省や周辺漁業組合からも全面的な支援を受け、遂に計画が承認を受け、大手ゼネコン・五洋建設に工事を発注することとなった。

度重なるトラブル

写真:工事の取り纏めを担った吉本。7号ドックを背景に。

2014年1月に着工したこの大工事の三和ドック側の取り纏めを任されたのが、同9月に設計室に異動した吉本(現 総務課 課長代理)だった。ドックは建設会社が建設するが、その周辺を這う清水やガスなどの配管は三和ドックが設計・施工する。建設会社が作成した図面を元に3D CADモデルを作成、バラスト水処理装置搭載工事で培ったノウハウを生かして詳細な配管を設計・施工する。通常業務も並行して進む中、吉本が主導し、総延長5,500mの配管を設計・敷設した。 全てが順調に進んだ訳ではない。今回のドックの海側側面は、既存の艤装桟橋の横に直径1,200mmの鋼管杭を計231本を打ち、隙間をコンクリートで止水することで壁とする計画だった。これが今回のドック建設では最大の難所となった。思う様に止水が出来ず、何度も水が漏れ出す。建設中のドック全体が完全に浸水してしまう事故は、杭の間に矢板を打ち水中コンクリートで完全に固めて遂に止水に成功するまで、計3回も発生した。

竣工、付帯設備の建設へ

写真:7号ドックの入渠第一号となったばら積み船の入渠作業。

度重なるトラブルを乗り越え、2016年6月9日、遂に新ドック第一番船となる大型ばら積み船が入渠した。当初の建築意図通り、BWMS搭載工事のために来場した本船だ。その後も入渠船は絶えることなく、2017年2月末までで計37隻の船が入渠、内5隻にBWMS搭載工事を実施した。
2017年3月現在、依然7号ドック横の埋立地では工場建屋の建設が続いている。資材倉庫・第三仕上げ工場・配管工場の3つの機能を有する、三和ドック史上最大となる総床面積4,480m2の大工場だ。特に配管工場はBWMS搭載工事の増加を見据え現状の工場よりも大幅に面積を拡大、パイプ再現機・パイプコースター等の最新機器を効率的に配置し、大口径管の加工もスムーズにできる最新鋭工場となる。最新設備でクラフトマンの技術を後押し、更に効率的・効果的な工事の実現に資する予定だ。また、工事の増加に伴い増加する従業員に対応すべく、2016年8月には新事務所棟、2017年3月には76室を備えた新独身寮『ビアンヴェニュ―三和』も完成。その他、さんわ食堂や新守衛所など、計画はまだまだ続く。 三和ドックの設備拡張は、まだ発展途上である。

*パイプフォーム;3次元データを元にパイプの接合部(フランジ)を正確な角度で取り付ける装置。複雑に組み合う配管を確実に再現できる。
*パイプコースター;3次元データを元にパイプを設計データ通りの形に切断する装置。設計図通りに穴を空ける、複雑な形状に切断するなどの作業を高精度で実施出来る。